ダイ設計のEASTはなぜ難しい?オリムピックナショナルの「オールドスコティッシュ」

最終更新日 2025年10月11日 by daisyw

ペリー・ダイという設計家は、常にゴルファーへ根源的な問いを投げかけます。
「君は、自然の造形と対峙する覚悟があるか」と。

オリムピックナショナルゴルフクラブEASTコースをラウンドした多くのゴルファーが口にする「なぜ、あれほどまでに難しいのか」という率直な疑問。
その答えは、単にハザードが多いから、距離が長いから、といった表面的な理由の中にはありません。

こんにちは。
コース設計の翻訳家、鹿島悠人です。
私はかつて、このオリムピックナショナルが持つEAST(ダイ設計)とWEST(ファジオ設計)という二つの強烈な個性の融合に衝撃を受け、その哲学を解き明かすためにゴルフライターの道へ進みました。

この記事は、EASTコースの難しさの正体である「オールド・スコティッシュ・デザイン」という設計思想を解読し、あなたのスコアメイクに繋がる具体的な戦略へと翻訳するためのものです。
この記事を読み終える頃には、あなたを悩ませていたEASTコースの姿が、解くべき「壮大なパズル」として見えてくることをお約束します。

ペリー・ダイが仕掛けた「オールドスコティッシュ」という名の挑戦状

EASTコースの設計思想を理解するには、まずゴルフの原風景にまで思考を遡らせる必要があります。
それこそが、ダイ・デザイン社が掲げる「オールド・スコティッシュ」の伝統なのです。

ゴルフの原風景「リンクス」を内陸に再現する思想

スコットランドの海岸線に広がる「リンクス」。
それは、人の手が加わる以前から存在した、荒々しくも美しい自然の地形そのものです。
海からの風に削られ、自然にできたマウンド(起伏)や窪地が、そのままコースの戦略性を生み出しています。

ペリー・ダイがEASTコースで試みたのは、この「リンクス」の持つ本質を、埼玉の武蔵野台地という内陸の地に再現することでした。
一見するとフラットに見える地形の中に、無数のマウンドやコブ、そして深く小さなポットバンカーを巧みに配置することで、彼はプレーヤーに自然の厳しさと向き合うことを要求しているのです。

自然との調和ではなく「対峙」を求めるダイ・デザインの本質

近代的なコース設計の多くが「自然との調和」を謳い、美しい景観の中に戦略ルートを提示してくれるのに対し、ダイのデザイン哲学は一線を画します。
彼の設計は、プレーヤーに「自然との対峙」を強いるのです。

フェアウェイの微妙なアンジュレーションは、決して平らなライからのショットを約束してはくれません。
グリーンを狙うショットは、常に視界に入るマウンドやバンカー群による心理的な圧迫との戦いを強いられます。
これは、設計家がゴルファーに突きつけた、知力と技術、そして精神力を問う「挑戦状」に他なりません。

EASTコースの難易度を解読する3つの鍵(Key Strategy)

では、この抽象的な設計思想は、具体的にコースのどのような部分に現れ、我々アマチュアゴルファーを悩ませているのでしょうか。
その難易度を解読するためには、3つの鍵が存在します。

Key Strategy 1: 視覚的な罠と心理的な圧迫 –– 美しい景観に隠された「問い」

EASTコースを歩いていると、そのイングランドの丘陵地帯を思わせる景観の美しさに心を奪われます。
しかし、それこそがダイ氏が仕掛けた最初の罠なのです。

例えば、ティーイングエリアから見たフェアウェイの幅と、実際にボールを落とすべき安全なエリアには、意図的にズレが生じさせてあります。
巧みに配置されたマウンドや樹木が、安全なルートを狭く見せかけ、逆に危険なエリアが広く開けているように錯覚させるのです。
ドローンで上空から見れば一目瞭然のこの仕掛けを、プレーヤーは地上で自らの判断力で見抜かなければなりません。

Key Strategy 2: 「思考」を試されるグリーン周りの複雑性 –– 1パットへの道を阻む城壁

EASTコースでスコアを崩す最大の要因は、グリーン周りの複雑性にあります。
多くのグリーンは砲台状になっており、かつ複雑なアンジュレーションを持っています。

ここで重要なのは、「ただグリーンに乗せる」という発想を捨てることです。
設計家は「どの面に乗せるのか」という、より高度な問いを我々に投げかけています。
ピンと同じ面にボールを運べなければ、たとえグリーンオンしたとしても、そこから2パット、3パットを要することは珍しくありません。

グリーンを囲むガードバンカーやグラスバンカーは、まるで城壁のようにそびえ立ち、安易なアプローチを一切許さないのです。

Key Strategy 3: アンジュレーションとの対話 –– フラットなライは存在しないという前提

「EASTコースには、本当の意味でフラットなライは存在しない」。
これは、このコースを攻略する上での大前提として心に刻むべき言葉です。

フェアウェイの真ん中にボールを運べたとしても、そこが必ずしも打ちやすい場所とは限りません。
つま先上がり、つま先下がり、左足下がり…。
常に変化するライの中で、いかに体幹を保ち、安定したショットを放てるか。
これこそ、ダイが求める「自然と対峙する」技術の核心部分です。

このアンジュレーションを無視してスイングすれば、ボールは設計家の意図通りに、吸い寄せられるようにハザードへと向かっていくでしょう。

ケーススタディ:名物6番ホール「150ヤード連続バンカー」の解体新書

EASTコースの哲学が最も凝縮されたホールが、6番パー5です。
フェアウェイの右サイドに、実に150ヤードにわたって横たわる連続バンカー群
このホールは、まさにダイ設計の真骨頂と言えるでしょう。

設計家ペリー・ダイが突き付ける「究極の選択」

この巨大なバンカーは、単なる障害物ではありません。
プレーヤーの技量と欲、そしてリスクマネジメント能力を天秤にかける、設計家からの「踏み絵」です。

ティーショットの飛距離に自信があれば、バンカー越えの最短ルートを狙いたくなるでしょう。
しかし、そこには失敗すれば大叩きという高いリスクが伴います。
一方で、安全にバンカーを避けてフェアウェイ左サイドに刻むルートは、3打目の距離が残り、バーディーの可能性は低くなります。

3つの攻略ルートを分析する –– 刻むか、越えるか、その狭間か

このホールには、大きく分けて3つの戦略的ルートが存在します。

  1. 【ルートA】 aggressively(攻撃的): ティーショットでバンカー越えを狙い、2オンの可能性を追求する。
  2. 【ルートB】 safely(安全): ティーショット、セカンドショット共にバンカーの左サイドへ確実に運び、3打目勝負に徹する。
  3. 【ルートC】 strategically(戦略的): ティーショットはバンカー手前に刻み、セカンドショットで自分の得意な距離が残るポジションへ運ぶ。

どのルートが正解ということはありません。
その日の自分の調子、風向き、そして何より「自分は何をしたいのか」という意志が問われるのです。

あなたが選ぶべき一打はどれか? スコアメイクへの翻訳

もしあなたがアベレージ90台のゴルファーであれば、迷わずルートBかCを選択すべきです。
このホールで重要なのは、バーディーを狙うことではなく、ダブルボギー以上を叩かないこと。
バンカーという「心理的な罠」に心を乱されず、自分のゲームプランを遂行する冷静さがスコアメイクに直結します。

なぜ我々は再びEASTに挑むのか? WEST(ファジオ設計)との比較で見える中毒性

これほどまでに難解なEASTコースですが、多くのゴルファーが虜になり、再び挑戦したくなるのはなぜでしょうか。
その答えは、隣接するWESTコース(ジム・ファジオ設計)との鮮やかな対比の中に隠されています。

モダンデザインのWESTがもたらす「解放感」

ジム・ファジオが設計したWESTコースは、美しい景観の中に複数の攻略ルートが用意された、モダンで開放的なデザインが特徴です。
ハザードの位置は視覚的に分かりやすく、プレーヤーは自分の技量に合わせてルートを選択する楽しみを味わえます。
EASTでの苦闘の後にWESTを回ると、そのプレーしやすさに誰もが解放感を覚えるでしょう。

EASTの難解さが、ゴルファーの「知的好奇心」を刺激する

しかし、不思議なことに、WESTで心地よいプレーを楽しんだ後、我々の心には再びEASTの難解なパズルが浮かび上がってくるのです。
「あのホールの正解は何だったのか」「次はこうすれば攻略できるのではないか」。

EASTコースの難しさは、単なる理不尽さではありません。
それは設計家の明確な意図に基づいて構築された、知的な挑戦です。
だからこそ、我々は打ちのめされてもなお、その謎を解き明かしたいという知的好奇心を刺激され、再びティーイングエリアに立つのです。

そして、このクラブの奥深さはEASTとWESTだけにとどまりません。
多くのゴルファーから寄せられるオリムピックナショナルの口コミに目を向ければ、箱根の雄大な自然に抱かれたサカワコースのように、また全く異なる設計思想に触れることもできるのです。

結論:EASTコースは、あなたを「真の戦略家」へと変える壮大なパズル

オリムピックナショナルEASTコースの難しさの正体。
それは、ペリー・ダイが「オールド・スコティッシュ」の思想を通して我々に突きつける、「自然と対峙し、思考し、決断せよ」というメッセージそのものです。

本日の探求で得られた3つの戦略的視点

  • 視点を変える: 美しい景観は罠であると心得る。安全なエリアはどこか、常に疑いの目を持つ。
  • 目的を明確にする: グリーンは「乗せる」場所ではなく、「攻める」場所。ピンの位置から逆算して攻略ルートを組み立てる。
  • 自分を知る: アンジュレーションやハザードを前に、攻撃か安全策か、自分の今の技量で最善の選択をする。

あなたの次のラウンドを変える、具体的なアクションプラン

次にあなたがEASTコースに挑む際は、スコアカードに各ホールの「設計家の意図」をメモしてみてください。
「このマウンドは、視線を惑わすためにある」「このバンカーは、スライスを誘っているな」など、気づいたことを書き留めるのです。

その小さな積み重ねが、あなたを単なるプレーヤーから、コースと対話できる「真の戦略家」へと進化させてくれるはずです。

さあ、設計家の意図を読み解き、この一打を『戦略』に変えましょう。